医療情報ネットワークと
スーパーコンピュータの応用


水島 洋

国立がんセンター研究所 がん情報研究部
E-mail: hmizushi@ncc.go.jp

はじめに

ネットワークのアプリケーションを考える時に、医療は最も大切で効果の高い分野の一つである。利用用途としても、電子メールによる患者紹介からwwwによる画像データベースへのアクセス、テレビ電話によるコンサルテーションや電子カルテ、遠隔手術など、多種多彩な可能性を持っている。その一方で高速なネットワークの必要性やプライバシー問題、セキュリティや安定な接続性の確保など、医療ネットワークの構築には難しい問題点も多数存在する。
近年のコンピュータおよびネットワーク技術の進歩によって、従来不可能と考えられてきたことが可能になってきている。また、インターネットの発展はめざましいものがあり、接続組織数を表わすドメイン数や割り当てIPアドレス数、wwwサーバの数など、どれを見ても相当な勢いで増加している。日米間の国際回線利用に関してはすでに電話での利用容量よりもインターネットのための利用容量が上回っているほどである。 このような中で、国立がんセンターが関連するいくつかの取組に関して紹介したい。

1.インターネット上の医療情報

国立がんセンターでは93年2月よりgopherで情報提供を開始し、12月からwwwでもサービスを開始した。当初はがん関連情報や気象衛星画像、ネットワーク停止情報、日本の紹介などを個人的に行っていいた(http://www.ncc.go.jp)。まだ日本にほとんど情報提供サーバが無い時代で、海外からのアクセスが多かった。ひまわりの画像を扱うようになって、やっと日本にもインターネットで情報提供をする気運が始まってきた。その後商用ネットワークの誕生とともに、インターネットの熱は加速していった。
96年3月からはがんセンターとして公式な情報提供も行う体制を作り、がんセンターの各部署からの情報に加え、「がん情報サービス」(NCC-CIS: National Cancer Center - Cancer Information Service) として、患者向け、専門家向けにがんに関する解説や医療施設のリストなどを提供している(http://wwwinfo.ncc.go.jp)(図1)。現在、がんを防ぐための12か条、各種がんの解説、症状緩和と患者のケア、「痛み止めの薬」のやさしい知識、リハビリテーション、副作用対策、 腫瘍マーカー、緩和ケア病棟を有する病院案内、全国がん(成人病)センター一覧、講演会案内などがある。

図1 国立がんセンター「がん情報サービス」

 NCC-CISの情報は、国立がんセンター情報委員会の監修のもと、がん診療総合支援システム総括班学術情報小班が企画し、がんセンター内のエキスパートに執筆依頼をして作成している。原稿を一般人を加えた学術情報小班で内部査読を行い標準化した後、学術情報審査小委員会での審査を受け、承認をされたものから随時公開するというプロセスを経ている。今まで、個人レベルや医局レベルのホームページ立ち上げや情報サービスの例はあるが、NCC-CISのように国立がんセンターで十分な審査を受け認可された形での公開はわが国においては例のないものと考える。
なお、アクセス方法はつぎのとおりである。
ファックスの場合には、ファックス付き電話で一般向け: 03-3545-8888、医療従事者向け: 03-3545-2500に電話をかけ、音声ガイドに従って知りたい番号を押して、ファックスのスタートボタンを押して受信する。
 パソコン通信の場合には03-3545-1500に電話をかけ、接続後にリターンキーを1回押して、一般向け情報はinfo、医療従事者向け情報はinfomedでログインし、パスワードには何も入力せずにリターンキーを押せばよい。
インターネットの場合には、http://wwwinfo.ncc.go.jp にアクセスし、がん情報サービスを選択すれば、必要な情報にアクセスできる。
電話の音声の場合には、通常の電話で03-5550-3982にダイアルして指示に従えば良い。

2.国立がんセンター(中央-東)間ネットワーク

国立がんセンターでは1994年4月から30Km離れた東京都中央区築地の国立がんセンター(中央)と、千葉県柏市の国立がんセンター(東)との間に6Mbpsの光ファイバーによる専用線を接続して「診療情報ネットワークシステム」が運用されている(図2)。インターネットに接続されている研究用ネットワークと、ファイヤーウォールの中にある診療系ネットワークはそれぞれ独立させて通信させる設定になっている。6Mbpsの回線に障害が起こった場合を考えて、Dialup ISDN のINS1500公衆光ファイバー網によるバックアップも用意している。それぞれの施設には100MbpsのFDDIの光ファイバーネットワークが設置されており、各システムはこの光ファイバーネットワークで接続されている。テレビ会議を含めシステムは基本的にIP通信を用いており、将来の高速インターネットが可能になったときの拡張性を考慮している。

図2 国立がんセンター(中央-東)間のネットワーク

 テレパソロジーシステムはそれぞれの施設の病理検査室にある。写真1に示したようになっており、全自動化顕微鏡にハイビジョンカメラがついており、相手の施設の顕微鏡のステージ移動、倍率、光量、フォーカスなどをネットワークを通してリモートコントロールすることが可能である。
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写真1 テレパソロジーシステム

病理において標本全域を調べる場合にはハイビジョンの動画を伝送することが求められているが、現状の通信回線ではこれを行うことが出来ない。そのため、NTSC画像にDownConvertした顕微鏡画像をIPを用いたテレビ電話システムを用いて音声とともに準動画で伝送している。準動画であるために操作はしにくく、画像もNTSC画像では不明確な部分もあるので、最終的にはHDTVの静止画像をリモートからの操作によって送っており、その伝送には1枚あたり約5秒かかっている。
医療画像の場合には、より精度のよい画像を、より動画に近い状態で伝送することが、正確な診断や効果的なカンファランスにとって必要である。そこで、中央と東の間には、NTTの156Mbps のATM実験線と、TTnetの45Mbps ATM実験線を導入して各種の実験を行っている。156Mbpsの実験線の方では、東から中央にある診療画像データベースサーバへのアクセスや、診療系のアプリケーションの利用に用いているとともに、HDTVより高精細(2000 x 2000)なSuper High Difinition(SHD)画像の伝送を行いつつ、SHDの医療応用の可能性を検討している。また、45Mbpsの回線では、ATM swichに直接NTSC画像と音声を接続し、高品位なNTSC動画を用いたカンファランスなどに用いている。

3.全国的ネットワークの概要

がん診療施設情報ネットワークを中心とした医療機関ネットワークの全体構成は図2に示すとおりである。 このシステムの特徴としては、従来のテレビ(NTSC)動画でのシステムに加えて高精細画像(HDTV)の静止画像の伝送を併用する点、基本的な通信プロトコルをインターネットの標準であるIPに統一した点、さらに、通信を専用線とISDN公衆光ファイバーの2種類に分けた点がある。
テレビ会議やテレメディシンを行う場合にはHDTV画像の伝送などの通信のために高速な通信回線が必要となってくるが、通信料金は高い。一方、電子メールや文献検索などの情報検索については大量情報のための通信回線は必要ないものの、頻繁な通信や長時間の接続の必要がある。そこで、64K専用線を含む24時間使用可能なFrame-Relay網での接続と、INS1500の公衆光ファイバー網を併用するシステムを構築した。また、通信障害が起きた場合を想定する際、通信回線を最低1つは確保するといった点からも通信回線を二重化するメリットは大きい。

図3 施設間ネットワーク概念図

国立がんセンター(中央)では、毎週木曜日の夕方にメジカルカンファランスを開いていた。従来中央の施設内のみで行っていたものをテレビ会議システムの導入によって昨年からがん情報ネットワーク参加施設にも公開し、月1回は国立がんセンター東病院や地方がんセンターからの発信も行っている。また月に1回イメージカンファランスとして画像の検討を中心に多施設での活発な議論も行っている。その他にも海外からの演者も含め年間100回以上のセミナーが開かれており、中継希望があったものは演者の了解が得られれば地方がんセンターにも中継し、地方からの質問も受け付けている。
このシステムは当初各施設とも1対1でのテレビ会議システムという仕様であったため、接続地点が増え各施設からのセミナーの中継や症例検討会への参加希望が急増するに従い、これに随時応じることが難しくなってきた。これを解決する策として多地点テレビ会議システムを導入し、多くの施設を同時に接続できるようにした。
しかしながらこの多地点テレビ会議システムは市販製品を用いているために、医学の分野において欠かせない高精細画像を送受信することができない。通常のNTSC準動画では細かいスライドや病理/放射線画像は利用に耐えないと判断し、HDTV伝送と多地点同時会議という2点の要求を満たすシステム設計を行った。
医療機関のネットワークとしてのバックボーン的なネットワークが無い現在、全国展開しているがん診療施設ネットワークを利用することはセキュリティなど様々な面から考慮して非常にメリットがある。そこで、この設備を利用して他の医療機関との連携も開始している。すでに厚生省本省をはじめ、日赤医療センター、臓器移植ネットワークや腎不全ネットワークを行っている国立佐倉病院、日本医師会などとの接続を行っている。また、四国がんセンターでは愛媛県医師会と接続し、メーリングリストの運用やwwwサーバーによる会員向け情報提供など、医師会としてのネットワークの活用を行っている。
1996年9月から、TTnet,TWJ,OMPとの共同研究によって、国立がんセンターと大阪にある国立循環器病センターの間での45Mbpsの通信実験が開始された。このプロジェクトでは、医療用のスーパーコンピュータを持つ2つのナショナルセンターを高速回線で接続することによって高度な計算を行うとともに、画像データベースなどのデータへの高速アクセスを行ったり、大切な医療データの相互バックアップ、外部接続のバックアップ回線などの機能を行うことを目的としている。また、国立がんセンター東を含めて3ヵ所での高品位なテレビ会議を行うことも検討されている。
インターネットを用いて、米国Georgetown大学やArmed Forces Institute of Pathologyとの間でのテレビ会議による遠隔病理診断を行っている。また今年からはGIBNプロジェクトの一環として、米国Duke大学との間でも2.8Mbpsの専用回線で接続し、ハイビジョンを用いた遠隔医療実験を開始する予定である。

4.国立病院等総合情報ネットワークシステムの概要

厚生省では、今年度、これらのネットワークで培った技術を利用して、「国立病院等総合情報ネットワーク」を整備している。図4にその概要を示す。
このネットワークによって、全国にある251の国立病院、国立療養所、地方医務局が最低64Kの専用回線でむすばれる予定である。このネットワークは業務システムのために作られているが、各病院の医局から運用センターのファイヤーウォールを介してインターネットの資源を利用できるようになっており、勤務する医師の情報交換が活発になることが期待されている。また、専用回線は災害の際の交換機の処理能力のパンクや発信規制などに影響を受けないことから、災害時には緊急電話/Fax網としても利用できるように設計されている。

図4 国立病院等総合情報ネットワーク

5.スーパーコンピュータの医療への応用

国立がんセンターでは平成7年度に3台のスーパーコンピュータを含む「がん診療総合支援システム」を導入した。科学技術計算用サーバとして16000個のCPUを有するDECmpp12000を導入し、主に遺伝子のホモロジー検索に用いている。画像処理サーバとしては40ノードのIBM SP2を導入して、2次元や3次元の画像構築や、バーチャルリアリティに用いている。診療系ネットワークに設置した高速情報検索サーバーとしては4ノードのIBM SP2を導入している。その他にも大容量の各種ファイルサーバー(画像用は2TB)や、SGI Onyx RE などの各種グラフィッックワークステーション、計算化学に用いているワークステーションクラスタなどを含んだシステムとなっている。
これらのサーバーを用いて、国立がんセンターでは主に次の6つのプロジェクトを行っている。

5.1 AIエキスパートコンサルテーションシステム

患者情報をとりこみ、人工知能(AI)などを用いた高度な解析を行う。その結果を利用し、統計手法や人工知能技術を駆使した予後予測支援システム、類似症例検索システム等の開発を行っている。また、個人情報の無いかたちでのリファレンスデータベースとしての公開も検討している。

5.2 高次画像処理診断治療支援システム

各種モダリティの画像をオンラインでとりこみ、画像データベース を作成し、その中から画像レファレンスデータベース を作成する。また、断層写真からの3次元画像処理や 放射線治療計画 も行い、診断精度の向上、放射線治療の最適化等への応用をめざしている。
また、ヘリカルCTやSPECT画像の新しい画像処理システムの開発なども行っている。

5.3 バーチャルリアリティ (VR)

患者さんのCTやMRIの情報を用いた手術のシミュレーション を行い、事前の術式検討や 医師の教育に用いる。また、 診断支援や患者さんに対するインフォームドコンセントにも用いられ始めている。

5.4  画像自動診断

ニューラルネットによってX線画像や病理画像の特徴量の解析を行い、コンピュータによる画像診断の支援システムを開発している。

5.5 分子生物学

高速で高感度なホモロジー検索などの遺伝子解析システムを電子メールでだれでも利用できるように公開している。

三次元分子設計システムも導入されている。より実感をもってその分子構造が理解できるように、HeadMountedDisplayや位置センサーなどを利用したVRシステムを開発し薬剤の立場になった設計支援を試みている。

5.6 学術情報提供

先にのべたように、一般向け、および専門家向けに、がんに関する最新情報を国立がんセンターで編集し提供している。インターネット、パソコン通信、ファックス応答システム、および音声応答システムでのアクセスが可能である。

6.参考文献


Last Update: 961111, hmizushi@ncc.go.jp